YuOkumura’s blog

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H・D・ソローと夢の道アパラチアン・トレイル

アパラチアン・トレイル(Appalachian Trail, 3498km)とはアメリカ東部をアパラチア山脈に沿って南北にのびる長距離自然歩道のことです。

 

私の夢の1つに、このアパラチアン・トレイルをバックパックを背負ってスルーハイク(一度で全ての道を歩ききること)する、というものがあります。一度にスルーハイクするには約6ヶ月かかると言われています。

 

アパラチアン・トレイルの話をする前にまず〝ヒッピー〟の話をします。私は昔から〝ヒッピー〟という言葉に興味を持っていました。私達の生きるこの時代にはヒッピーはもう存在しませんし、ヒッピーがどのような人達でどんな時代背景から登場していったのかシンプルに興味があったのです。

 

ヒッピー(HIPPY)の語源はもともとヒップスター(HIPSTAR)という言葉に由来し、ビートニクの人達(1955年〜1964年にかけてアメリカ文学会で異彩を放ったグループの総称、ビート・ジェネレーションとも呼ばれる)を意味していました。『On the Road』を描いた J・ケルアックや、『吠える』のアレン・ギンズバーグ、W・バロウズなどが代表的なビートニクス達で、彼らの描いた文学はビート文学と呼ばれます。最近でも〝イケてる、イカしてる〟ことを〝ヒップ〟と言うのがアメリカで流行っていたそうです。また、イケてる人、ロールモデルをヒップスターと呼ぶようです。

 

ヒッピーとは、既成社会の伝統や制度、保守的な男性優位社会を否定するカウンターカルチャー(価値観や行動規範が主流社会のものとは大きく異なり、しばしば主流の文化的慣習に反する文化のこと)の一翼を担った人々とそのムーブメントのことです。彼らは、共同体生活への回帰や自然回帰を提案し、反戦運動カウンターカルチャーとしてのロック、野外フェス、性解放、フリーセックス、大麻LSD、男女平等、差別の廃止などを主張しました。また、インドなど東洋の宗教や哲学に魅力を感じ、日本の〝〟にも影響を受けています。

 

そもそもヒッピーたちは、1950’sのビートニクスの思想を色濃く継承しているのですが、さらに遡って、そのビートニクス達に大きな影響を与えた人物に鈴木大拙(すずきだいせつ,1870-1966)という日本人がいます。

 

鈴木大拙は日本の仏教学者で、禅についての本(『What is ZEN』が有名)を英語で著し、日本の禅文化を海外に広く知らしめました。1952年から1957年には米、コロンビア大学客員教授として滞在し、仏教、特に禅の思想を広げました。その時に実際にビート・ジェネレーションである、J・ケルアックやW・バロウズとも関わりがあったそうです。

 

ビート・ジェネレーションの作家たちはドラッグを使用することによって、精神の内面世界を探求していったのですが、そこには限界があることも知り、同じように精神の内面を追求する哲学でもある〝禅〟に惹かれていきました。

 

ヒッピーのことを知るなかで、ヒッピーたちが登場してくる1つの要因に禅、そして日本人が関わっている事に私はとても驚きましたし、同じ日本人として、とても嬉しくなりました。

 

さらに遡っていくと、H・D・ソロー(1817〜1862 ) というアメリカの作家に出会いました。ビート文学の思想的なルーツはH・D・ソローの『ウォールデン、森の生活』という本にあると言われています。

 

ソローが誕生したのは1817年、アメリカのコンコードで、今から約200年前です。ソローはウォールデンの湖のほとり、森の中に自分で丸太小屋を建て、2年間自給自足の生活を送りました。そのときの生活や思想をまとめたものが『森の生活』という本です。約170年前に書かれたとは思えないほど、世の中を俯瞰して捉えていて、その批判の多くは現在の私たちにも刺さるものがあります。ソローがこの本の中で書いている、物質主義への批判や労働に対する意識、生きることへの考えが多くのビート・ジェネレーションを刺激したのだと思います。『森の生活』は、私が人生でもっとも影響を受けた本です。

 

ソローは生涯多くの時間をアメリカ東部のメインの森を探索して過ごしました。そのソローが愛したメインの森から始まる(または終わる)道が全長3498kmの長距離自然遊歩道、アパラチアン・トレイルなのです。アパラチアン・トレイル 通称A.T.ジョージア州からメイン州にかけて14州にまたがった長距離遊歩道です。

 

アメリカにはメキシコ国境からカナダの国境までアメリカ西海岸を南北に縦走する、パシフィック・クレスト・トレイル(PCT, 4260km)、アメリカ中部を南北に縦走する、コンチネンタル・ディヴァイド・トレイル(CDT, 4960km)、そしてアパラチアン・トレイル(AT, 3498km)という3つの長距離自然遊歩道があり、これらを総称してアメリカ三大トレイルと呼ばれています。

 

私は、ヒッピーへの興味が、ビートニクや禅、ソロー、そしてアパラチアン・トレイルにつながったことをとても面白いと思いました。

 

また、日本人のロングトレイルの第一人者、加藤則芳さんの『メインの森をめざして』という、加藤さん自らがアパラチアン・トレイルを歩いたノンフィクション作品を読んだことによって、ますます興味をもちました。

 

アパラチアン・トレイルを歩くことは私の夢ですが、そう遠くないうちにチャレンジしたいと思っています。そこで何を感じ、考え、体験し、どんな出会いがあるのかを考えている時間がとても幸せです。

 

おわり